銭湯絵師 祖父の“青”に魅せられて

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銭湯絵師 祖父の“青”に魅せられて

发布时间

5月19日

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「“同じ富士山は二度と描けない”そんな唯一無二の絵に魅力を感じました」

こう話すのは、銭湯絵師の第一人者として知られる祖父の技を受け継ごうと、挑戦を続けている女性です。

湯気の向こうに広がる富士山と大海原。

大正時代から日本の銭湯を彩ってきた、その世界とは。

(映像センター 柳嘉範 / 齊藤正廣)

絶景を生み出す銭湯絵師

大正時代にその文化が始まったとされる銭湯絵は、ペンキで描かれた富士山や広大な海が特徴の風景画です。

この絵を描くのが、“銭湯絵師”と呼ばれる職人たちです。

昭和30年ごろには20人ほどいた銭湯絵師も、現在はわずかしか残っていないとされています。

そのうちの1人、丸山清人さん(90)は、この道60年以上の大ベテラン。

これまで全国各地を回って、数多くの作品を生み出してきました。

銭湯絵は湿気の影響で劣化が早いため、通常2、3年で塗り変えます。

丸山さんは、銭湯の休業日のわずか1日で、元の絵に上塗りする形で新しい絵を完成させます。

形状が違う10本以上の筆やハケを使い分け、ほぼ下書きなく描き上げる技術は、まさに匠の技です。

丸山さんの代名詞は、“青”。

特注の紺色のペンキに他の色を混ぜて生み出される深みのある青は、丸山さんにしか出せない青色で、見る人の心を癒やし、非日常の空間にいざないます。

銭湯文化に詳しい専門家は、丸山さんが描く青の濃淡が絵に奥行きをもたらし、開放的な空間を作り出していると話します。

日本銭湯文化協会理事 町田忍さん 「丸山さんの絵は非常に繊細で、特に青色の濃淡は色の移り変わりが絶妙でまねをするのは難しいです。 塗料の硬さ・乾き具合の調整や、筆のタッチの加減は、長年の経験によって培われたもので、そこから生み出される奥行きのある大海原は、浴場をより開放的な空間へと変化させます」

唯一無二の“青色”に魅せられて

丸山さんが描く青の絶景。

その世界に魅了された女性が今、丸山さんの技術を継承すべく、絵師の道を歩み始めました。

丸山さんの孫の間川千奈さん(28)です。

おじいちゃん子だった千奈さんは、幼いころから祖父の清人さんの描く絵が大好きで、その仕事姿を見ようとたびたび銭湯に足を運んでいました。

千奈さんが特に好きだったのが、清人さんの描く青のグラデーションでした。

間川千奈さん 「祖父は波のたたないような、穏やかな風景をよく描くんですけど、色がじんわり変わっていくので、ゆったりとしていて安らぎを感じます。心が落ち着くと思いますし、日々の疲れを心身ともに癒してくれる。 ふだんはすごいのんびりしていて、なるべく家にいたい、あまり外に出たくないという感じで、性格的にも温厚で怒ったところを見たことがないくらい、やさしいおじいちゃんです。 でも仕事になると、目つきが変わってすごくテキパキ動きますし、ふだんとは違います。仕事では職人のスイッチが入って、すごくかっこいいなと思っています」

“同じ富士山は二度と描けない”

美術コースのある高校から都内の美術大学に進学した千奈さん。大学では、パソコンのソフトを使ったデザインを学んでいました。

デジタル系のコースを専攻していましたが、大学時代に清人さんの仕事を手伝う中で、アナログの良さ、“手作業”だからこそ生まれる魅力に気付いたと言います。

間川千奈さん 「1人の人間が手書きで描いたものなので、筆のタッチとか質感とか、手で描くアナログならではの温かさがあります。 祖父はよく“同じ富士山は二度と描けない”と言っていて、唯一無二の絵に魅力を感じました」

“自分も祖父のような絵を描きたい”

千奈さんは大学卒業後、清人さんに弟子入りしました。清人さんの自宅に住み込んで机を並べて、四六時中絵を描く日が続きました。

祖父の口癖は“見て学べ”。

千奈さんは、筆づかいを繰り返しまねながら、その技を体に染みこませていきました。

病気の祖父にかわって

しかし3年前、突然の試練に見舞われます。清人さんが脳梗塞を患い、絵を描くことが難しくなってしまったのです。

「このままだと、自分が憧れ、目標としてきた祖父の絵が、いずれ描き変えられ、なくなってしまう」

清人さんが描いた絵が残る銭湯は、都内で20軒ほど。千奈さんは、自分の手で大好きな祖父の銭湯絵を残したいと考えました。

東京 足立区にある銭湯には、清人さんが6年前に描いた絵が残されていますが、ペンキが剥がれるなど劣化が進んでいました。

銭湯絵を塗り変える場合、一から違う絵を描くのが通例ですが、千奈さんは、祖父の絵を残すために劣化した部分を塗り直す「修復」という選択をとりました。

清人さんからもらった手ぬぐいやパレットを使って、1つ1つ丁寧に筆を進めていきます。

最後の工程は、千奈さんにとって大切な、祖父ならではの「青のグラデーション」。

清人さんから受け継いだ特注の紺色を使って色を混ぜ合わせ、同じ青を作っていきます。

間川千奈さん 「銭湯絵は時間との勝負の仕事でもあるんですが、私は集中すると1点だけに夢中になってしまうところがあるので、集中しすぎないで、『離れて距離をとってよく見るように』と言われていました。 1人で仕事をしていてもそれは気を付けるように、祖父のことばを忘れないように心ががけています」

清人さんのように1日で、とはいきませんでしたが、2日かけて男湯と女湯の修復作業が終わり、青の絶景が再び息を吹き返しました。

後日、千奈さんは修復の報告をしに、入院中の清人さんを訪ねました。

最初に修復前のボロボロの写真を見せて、そのあとに修復後の写真を見せると、「お前が直したのかすごいな」「こっちの方が見違えるほどきれいや」と言って、自分の描いた絵を孫が直してくれたことをとても喜んでくれたと言います。

間川千奈さん 「銭湯絵を見ながらお風呂につかって癒やされることで、日常の毎日が幸せだなって思ってほしいです。 自分も祖父みたいにたくさんの人に愛される絵を描けるよう、一生懸命、祖父の跡を継いで一人前の銭湯背景画の絵師として活動できるよう頑張りたいです」

取材を通じて

千奈さんは、今後も清人さんの絵の修復を続けながら、将来は銭湯に自分の絵を描くことを目標にしていると話していました。

取材をして一番印象に残っているのは、千奈さんが絵の修復後に祖父のサインの横に自分の名前を入れたシーンです。

手を震わせながらも丁寧に筆を動かす姿を見て、祖父に対する思いの大きさや、跡を継ぐ覚悟を感じました。

字体がそれぞれ異なるのも、2人の個性が表れていると思いました。

今回の取材をきっかけに銭湯に通うようになりましたが、スマホを置いて湯船につかり、何も考えずに銭湯絵を眺める時間は、何よりも心が落ち着きます。

銭湯絵を見に、みなさんも足を運んでみてはいかがでしょうか。

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